東京地方裁判所 昭和54年(ワ)7626号 判決
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【判旨】
二そこで、原告が本件仮差押をするについて過失があつたかどうかについて判断する。
1 前記当事者間に争いのない事実によれば、本件仮差押の本案訴訟において被告は敗訴しその判決は確定したものであるから、特段の事情がない限り、仮差押申請人である被告において過失があつたものと推定するのが相当である。
2 そこで、被告において仮差押の挙に出るについて相当な事由があつたかどうかについて検討する。
(一) <証拠>を総合すると、被告が本件仮差押をするに至つた経緯は、次のとおりであつたと認められる。
(1) 被告は不動産売買を業とする会社であり原告は建築、不動産売買を業とする会社であるところ、被告は、昭和五一年一〇月一日、訴外須沢義雄との間で、原告か本件土地上に本件建物を建築することを停止条件として、これらの土地建物の所有権を原告から取得したうえ、須沢に対し、(ア)代金一四九五万円、(イ)手付金二〇〇万円、中間金として、昭和五一年一一月一〇日までに二〇〇万円、同五二年一月二〇日までに二〇五万円を支払う、(ウ)被告は昭和五二年三月一〇日までに須沢に対し目的物件を引渡し所有権移転登記手続を完了する、(エ)須沢は右手続の完了と同時に被告に対し残金八九〇万円を支払う、右残金は被告指定の金融機関の住宅ローンから借り入れた金員で支払う、(オ)当事者の一方が違約したときは、他方は催告を要せず売買契約を解除することができ、これが被告の義務不履行に基づくときは、被告は須沢に対し、手付金と同額(二〇〇万円)の違約金を支払わなければならない旨の約定で売り渡すとの売買契約を締結し、被告は、昭和五一年一〇月一日、須沢から手付金二〇〇万円の支払いを受けた。
(2) 他方、被告は、昭和五一年一〇月二六日、原告との間で、本件建物が建築されることを停止条件として、本件不動産を、(ア)代金一二六八万円、(イ)手付金五〇万円、中間金として、昭和五二年一月三一日までに一一八万円を支払う、(ウ)原告は同年二月二〇日までに被告に対して目的物件を引渡し、所有権移転登記手続をする、(エ)被告は右手続の完了と同時に原告に対して残金一一〇〇万円を支払う、(オ)当事者の一方が違約したときは、他方は催告を要せず売買契約を解除することができ、これが原告の義務不履行に基づくときは、原告は被告に対して手付金と同額(五〇万円)の違約金を支払わなければならない旨の約定で売買契約を締結し、被告は、原告に対し、契約締結時に手付金五〇万円を支払い、昭和五二年一月三一日中間金支払いのため約束手形を交付した。
(3) 本件土地はもと訴外斉藤敏明の所有であつたところ、被告の仲介により原告がこれを買い受け、前記のとおり本件土地上に建売住宅として本件建物を建築したうえ、被告がこれを買い受けて須沢に転売することになつていたものであるが、転買人の須沢が残代金支払資金を被告指定の金融機関の住宅ローンから借り入れる都合上、本件土地については昭和五一年一二月二〇日中間省略により斉藤から須沢に所有権移転登記がされ、また、本件建物については昭和五二年二月五日須沢を所有者として表示登記がされた。なお、それぞれの登記の際、被告において代金不払の際に直ちに原告に所有権移転登記をすることができるよう須沢の印鑑証明書、白紙委任状等が訴外三国惣次郎司法書士に預けられた。
(4) ところが、当初の原被告間の売買契約で定められていた昭和五二年二月二〇日に被告が原告に対し支払うべき残金一一〇〇万円の支払いがされなかつたので、原告は、同月二一日、被告に対しその支払いを強く催告したが、支払いを受けることができなかつた。そこで、原告は、右債務不履行を理由に内容証明郵便で原被告間の売買契約を解除する旨の意思表示をするとともに、三国司法書士に依頼して、本件建物につき須沢名義の保存登記を経由し、本件不動産について原告のため真正な登記名義回復を原因とする所有権移敗登記を経由した。
(5) これに対し、被告は、原告が、被告の転売先須沢か住宅ローンの融資を受ける都合上本件不動産について代金支払前にその登記名義を須沢にすることを承諾し、かつ残代金一一〇〇万円の支払いを昭和五二年三月一〇日まで猶予しながら、当初の約定日である同年二月二〇日における右残代金の不払いを理由に本件不動産の登記名義を原告に変更し、須沢の住宅ローンによる借入を不能にしたことは、原告の債務不履行である、と主張し、原告の右債務不履行により、須沢と被告との売買契約が不能となり須沢から昭和五二年二月二三日契約を解除されたことによつて被告は原告及び須沢との両契約の差額二二七万円の得べかりし利益を得られず同額の損害を被り、また、被告は須沢との約旨により同月二六日同人に対し違約金二〇〇万円を支払い同額の損害を被つたから、原告に対し金四七七万円の損害賠償請求権を有するとして、右損害賠償請求権を被保全権利として本件仮差押申請に及んだ。
(二)1 右事実によると本件仮差押の被保全権利である被告の損害賠償請求権の発生は、原告が本件不動産の所有名義を須沢から原告に変更したことが正当であつたかどうか(原告の債務不履行になるかどうか)にかかり、それはまた、被告が原告との売買契約で定めた当初の残代金支払期日である昭和五二年二月二〇日に残代金の支払いをしなかつたことが正当かどうか(被告に債務不履行があつたかどうか)にかかり、それは更に、被告が原告から残代金の支払期限を昭和五二年三月一〇日まで猶予されていたかどうかにかかつていたものであつたと考えられる。
2 ところが、昭和五二年二月二〇日に支払うべき残代金の支払いについて期限の猶予を得た旨の被告の主張にそう<証拠>及び被告代表者本人尋問の結果は<証拠>(原告代表者本人尋問調書)と比較して信用することができず、他に被告が残代金の支払について期限の猶予を得たことを認めるに足る証拠はない(前記甲第九号証によれば、本件仮差押の本案訴訟として被告が提起した損害賠償等請求事件(東京地方裁判所昭和五二年(ワ)第二七五七号)の判決においても、残代金の支払期限について猶予を得た旨の主張については「原告(注・本件被告)代表者平山忠雄はその本人尋問で右主張にそう供述をするが、これを否定する被告(注・本件原告)代表者福岡雄三の供述に照してにわかに信用できず、他に原告(注・本件被告)の前記主張を認めるに足りる証拠はない」として排斥されているところであり、この点については、被告代表者の供述以外に証拠がなかつたことがうかがわれる。)更に、被告において原告から期限の猶予を得たものと信ずることがもつともであるということができるような事情の存在を認めるに足る証拠もない。
(三) 右のような状況のもとでは、被告において被保全権利の存在を信じて本件仮差押の挙に出る相当の事由があつたものとはとうていいえず、前記過失の推定を覆えすに足りる特段の事情があるものということはできない。
三そこで、次に、原告の損害について判断する。<中略>
3 弁護士費用
(一) <証拠>によれば、原告代表者は被告より本件仮差押の執行を受けたのち直ちに福岡清弁護士に相談し右執行に対する対抗措置を依頼したが、その後同年三月二八日被告より損害賠償請求訴訟が提起されたためその訴訟の応訴をもあわせて依頼し、昭和五二年五月二三日手数料(着手金)として金二五万円を支払い、また、右本案訴訟に勝訴したのち昭和五四年七月二三日金五〇万円を報酬として支払つたことが認められる。
(二) <証拠>によれば、原告代表者より本件仮差押に対する措置を依頼された福岡弁護士は、右仮差押に対しては、昭和五二年五月三一日仮差押決定の執行の取消の措置をとつただけで異議の申立をしなかつたが、これは、本件仮差押に引き続いて被告より損害賠償請求の本案訴訟が提起されたため、仮差押に対する異議と本案訴訟の応訴との両者を併行して進めるよりも、本案訴訟において勝訴し損害賠償請求権の不存在が確定されれば、本件仮差押の取消しを受けられることにもなり、本件の抜本的解決としてはそのほうが効果的であると判断し、本案訴訟の応訴だけにしぼつて解決を求めたものであることが認められ、本件の事案からみて右福岡弁護士の対応策が適切を欠いていたものとは考えられないところである。
(三) 以上のように、本件においては、仮差押の債務者でありかつ本案訴訟の被告である原告が仮差押に対する対応措置ともに本案訴訟の応訴をも依頼し、依頼を受けた弁護士において本案訴訟に応訴し勝訴することによつて仮差押の取消をうけることが相当と判断しその対応が適切であると認められるところであるから、右弁護士に対し支払われた費用全部を本案訴訟のためにのみ費やされたものとして本件仮差押と因果関係を欠くものであるということはできない。そして、本件の事案に照らすと、原告の支払つた右弁護士費用中金二五万円をもつて本件仮差押と相当因果関係があるものと認めるのが相当である。
(越山安久)